前回、私たちは「考える苦しみ」について話しました。

AIに思考を外注せず、自分の頭で考え抜くこと。その苦しみの中にこそ、あなただけのオリジナリティが宿る。
しかし、ここで問題が起きます。
苦しんで考え抜いた答えを、いざ「出力」しようとする瞬間、私たちは無意識に、その答えを誰かに委ねてしまうのです。
企画書を書く。プレゼン資料を作る。提案をまとめる。
その時、あなたは誰の顔を思い浮かべていますか?
顧客の驚く顔ですか?それとも、上司の不機嫌な顔ですか?
「会議を通る企画」と「市場で勝てる企画」の乖離
ある企画会議で、こんな光景を見たことがあります。
Aさんが提案した企画は、斬新で、顧客の未来を変える可能性を秘めていました。しかし、会議では「リスクが高い」「前例がない」「本当に売れるのか?」という声が飛び交い、結局採用されませんでした。
一方、Bさんが提案した企画は、競合も既にやっている内容で、新鮮味はありませんでした。しかし、「実績がある」「安全だ」「予算も抑えられる」という理由で、即座に承認されました。
会議を通る企画と、市場で勝てる企画は、往々にして一致しない。
なぜなら、会議を通る企画は「評価者を安心させる」ために作られるからです。リスクを避け、前例に沿い、誰も傷つかない。しかし、そこに顧客を驚かせる力はありません。
逆に、市場で勝てる企画は、顧客の期待を超える「何か」を持っています。それは前例のない挑戦かもしれないし、誰も気づいていなかった課題の解決かもしれない。しかし、その「何か」は、評価者を不安にさせます。
あなたは今、どちらを書いていますか?
では、どう考えるか?

ここで、読者は問うでしょう。
「じゃあ、顧客を驚かせる企画を考えるには、どうすればいいのか?」
答えは、シンプルです。評価者の顔を消して、顧客の明日を想像することです。
具体的には、こう考えてください。
1. 顧客の「今日」ではなく「明日」を見る
顧客が今日抱えている問題は、おそらく顧客自身も気づいています。それを解決する提案は、確かに喜ばれます。しかし、それは「期待通り」でしかありません。
本当に価値があるのは、顧客がまだ気づいていない、明日の問題を先回りして解決することです。
「この業界は、3年後にどうなっているか?」
「この顧客は、5年後にどんな課題に直面するか?」
「その時、今の解決策では通用しなくなっているのではないか?」
この視点で考えることで、顧客を驚かせる企画が見えてきます。
2. 「なぜ」を5回繰り返す
顧客の要望を、そのまま受け取ってはいけません。その奥にある、本質的な課題を見抜くために、「なぜ」を繰り返してください。
顧客:「コストを削減したい」
あなた:「なぜ、コストを削減したいのですか?」
顧客:「利益率が下がっているから」
あなた:「なぜ、利益率が下がっているのですか?」
顧客:「競合が価格を下げてきたから」
あなた:「なぜ、競合は価格を下げられるのですか?」
顧客:「…効率化が進んでいるからだ」
ここまで掘り下げると、本質が見えてきます。本当の課題は「コスト削減」ではなく、「効率化の遅れ」だったのです。
3. 自分の哲学と顧客のベネフィットを重ねる
あなたには、仕事に対する哲学があるはずです。「こうあるべきだ」という信念。「これが正しい」という直感。
その哲学を、企画に反映させてください。
顧客のベネフィットを追求しながらも、あなた自身が信じる価値観を、企画の中に込めるのです。
それが、あなたの企画を「誰にでも書ける提案」から「あなたにしか書けない提案」に変えます。
承認欲求から解放され、顧客に見せる勇気

しかし、こう考えた企画は、往々にして「会議を通らない」リスクがあります。
なぜなら、それは評価者の期待を裏切るからです。
ここで、あなたは選択を迫られます。
評価者を安心させるために、企画を丸めるか。それとも、顧客のために、勇気を持って提案するか。
承認欲求は、あなたの創造性を殺します。
「上司に怒られたくない」「失敗したくない」「波風を立てたくない」…その恐怖が、あなたの企画を「無難」にします。
しかし、無難な企画は、顧客の心を動かしません。
顧客が求めているのは、安全な提案ではなく、未来を変える提案です。
あなたが本当に顧客のことを考えているなら、評価者の顔色ではなく、顧客の明日を見て、企画を書いてください。
出力の質は、「誰に見せるか」で決まる
あなたの企画書は、誰の承認を求めていますか?
上司ですか?経営層ですか?それとも、顧客ですか?
出力の質は、「誰に見せるか」で決まります。
評価者に見せるために書けば、評価者が喜ぶ内容になります。
顧客に見せるために書けば、顧客が驚く内容になります。
そして、あなたが書くべきは、後者です。
しかし、ここで読者は問うでしょう。
「じゃあ、通らない企画を書けってこと?それは理想論じゃないか?」
違います。
私が言いたいのは、「評価者を無視しろ」ということではありません。
現実のビジネスでは、上司を通さなければ顧客に届かない。経営層の承認がなければ、予算もリソースも動かない。その制約の中で戦わなければならないのは、当然です。
しかし、その制約の中でも、顧客を見失わない方法はある。
答えは一つではない。最適解を探せ。

優れたビジネスマンは、「評価者 vs 顧客」という二項対立に陥りません。
彼らは、その両方を満たす道を、自分なりに見つけ出します。
そのやり方は、人それぞれです。
ある人は、根回しをしっかりやる。
評価者の不安を事前に潰し、理解者を増やしてから、会議に臨む。
ある人は、顧客をグリップする。
顧客の声を強力な武器にして、社内を動かす。
ある人は、経営層に刺さるプレゼンをする。
固着した社内を打開したいと考える経営層に、直接届ける。
ある人は、まず安牌の企画を通す。
そして、次なるストーリー、ナラティブを用意して、段階的に挑戦する。
ある人は、組織の活性化を促す。
歴史は繰り返す。視野狭窄にならないように、仕組みそのものを変える。
コナンは「真実はいつも一つ」と言いますが、ビジネスに答えは無数にある。
与えられた条件、環境、リソースの中で、最適解を探す。試行錯誤する。失敗から学ぶ。
それこそが、考えるということではないでしょうか。
顧客を見失うな。しかし、現実とも戦え。
大事なのは、「評価者を無視すること」ではなく、「顧客を見失わないこと」です。
評価者の顔色を伺いながらも、その奥に顧客の顔を見続けること。
社内を通すために戦略を練りながらも、その目的が顧客の価値であることを忘れないこと。
それが、あなたが出力すべき企画の姿です。
次回は、「固執」について話します。
一つの正解に固執する者は、なぜ成長できないのか。上司の言葉、成功体験、自分の哲学…それらは参考であって、絶対ではない。
柔軟性を持ちながら、自分の軸を失わない。その話をしましょう。



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