前回、私たちは「コンパス」の話をしました。

評価者の顔色、社内の音量、リスク回避の誘惑…それらに振り回される日々の中で、たった一つの揺るぎない基準に立ち返るための道具。それが、あなたのビジネスの原点である「顧客」へと針を合わせるコンパスです。
では、そのコンパスをどう使うのか。
答えは、驚くほどシンプルです。それは、あなたが日々向き合っている「問い」を変えること。
しかし、ここで一つ、あなた自身に問いかけてほしいのです。
今、あなたが解こうとしているその問題は、本当にあなた自身が見つけたものですか?
私たちは「他人の問い」を解く優等生になっている
朝のメールに書かれていた上司の指示。会議で出された顧客からの要望。
業界のベストプラクティスとして語られる定石。
それらはすべて、あなたの外側から与えられた「他人の問い」です。
優秀な社員ほど、この罠に陥りやすい。なぜなら、彼らは「与えられた問題を解く能力」が高いからです。上司の期待に応え、顧客の要望を実現し、業界の常識に沿った提案をする。それは確かに評価されます。
しかし、本質的な価値は、「他人の問い」を解いた先には、ない。
なぜなら、その問いは、すでに誰かが一度考えたものだからです。上司が考えた問い。顧客が言語化した問い。業界が共有する問い。それらは、すでに「前提」が埋め込まれており、その枠の中でどれだけ優れた答えを出しても、それは「改善」にすぎません。
真に顧客の未来を変えるような、誰も見たことのない価値は、「あなた自身の問い」からしか生まれないのです。
顧客の「言葉」ではなく「真の課題」を見抜け

例えば、昔の人は、顧客は言います。「もっと速い馬が欲しい」と。
しかし、本当に欲しいのは「速い馬」ではなく、「移動の自由、快適」かもしれません。
顧客自身も、自分の本当の問題に気づいていないことがある。だからこそ、彼らの「言葉」をそのまま問いにしてはいけないのです。
あなたの仕事は、顧客が言語化できていない、未来の痛みを先回りして見つけることです。
そのためには、顧客の要望を一度疑う勇気が必要です。
「なぜ、それが欲しいのか?」
「その先に、何を実現したいのか?」
「本当の敵は、何なのか?」
この問いかけを繰り返すことで、顧客の言葉の奥にある、本質的な課題が見えてきます。
そして、その課題こそが、あなた自身の問いになるのです。
自分の問いを立てる習慣を持て
では、どうすれば「自分自身の問い」を立てられるようになるのか。
それは、日々の仕事の中で、ほんの少しだけ、視点を変えるだけでいい。
一日の終わりに、自分に問いかけてください。
「今日、私は誰の問いを解いたか?」
上司の問いだったのか。顧客の言葉をそのまま受け取った問いだったのか。それとも、自分自身が見つけた問いだったのか。
会議の前に、自分に問いかけてください。
「この議題は、本当に解くべき問いか?」
その会議で話し合おうとしている問題は、誰が設定したものなのか。その前提は、本当に正しいのか。
企画を始める前に、自分に問いかけてください。
「この前提は、誰が決めたのか?」
業界の常識だから。過去にうまくいったから。上司がそう言ったから。それらの「前提」を一度疑うことで、新しい問いが見えてきます。
コンパスの針を「顧客」に合わせる

あなたが立てる問いの質が、あなたの仕事の質を決めます。
そして、その問いが「あなた自身のもの」であるとき、初めて顧客の未来を変える価値が生まれるのです。
次回は、その問いを「どう考えるか」について話します。
思考のプロセスを、検索エンジンやAIに外注していないか。答えを探すことと、答えを考えることの、決定的な違いとは何か。
それは、あなたの創造性の源泉に関わる、極めて重要な話です。



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