名古屋駅前で一杯。おつかれ生です。
「今日はおつかれさまでした。どうですか、久しぶりに駅近くで一杯呑んで帰りますか?」信夫課長が笑顔でレンタカーの会計を終えたばかりの川上さんに声をかけました。
「ああ、いいっすね!ぜひ。」川上さんも嬉しそうに応じました。
リニア新幹線の工事で慌ただしい名古屋駅をすり抜け近くの居酒屋に到着し、二人は生ビールで乾杯しました。「乾杯!今日はおつかれさまです。ここからですね。」信夫課長がグラスを上げました。
「今日は久しぶりの同行出張だったね。プレゼンテーションも大分良くなったじゃないですか。」信夫課長がビールを勢いよく飲み微笑みながら言いました。
「ありがとうございます、信夫課長のアドバイスのおかげです。」川上さんが笑顔で答えました。
「ここの名古屋めしは美味しいですよね。特に手羽先は絶品です。」信夫課長がメニューを見ながら言いました。
「そうっすね。名古屋めしはいいっすね。」川上さんもメニューを見ながら答えました。
「川上さん、最近遅くまで頑張って働いているようだけど、リフレッシュは出来てますか?」信夫課長が川上さんを気遣って尋ねました。
「そうですね、ちょっと忙しくてリフレッシュする時間が少ないです。でも、こうして飲みに来れるのはいい機会すね。」川上さんが答えました。
「それなら良かったです。健康第一ですから、無理しないようにしてください。」
ビールを飲み干した信夫課長は、次の飲み物を注文する。「すみません、次はハイボールをお願いします。」プリン体を気にしてハイボールに切り替える信夫課長に対し、川上さんは「自分は、まだ生でいきます。」と笑顔で注文を続けました。
リラックスした雰囲気の中で、二人は名古屋めしを楽しみながら、次第にビジネスの話題へと移っていきました。「川上さん、今日の訪問で何か気づいたことや学んだことはありますか?」信夫課長が問いかけました。
「はい、いくつかあります。特に顧客のニーズを深く理解することの重要性を再認識しました。」川上さんが答えました。
「それは大事なことですね。では、具体的にどのように感じたのか教えてください。」信夫課長が続けました。
知恵の競争であり、価値提供はタイミングが命
「今日の訪問で感じたのは、やはりビジネスは知恵の競争だということです。今日伺ったX社は、すでに彼らのシステムの痛みや悩み、ニーズが明確化されてて、予算化もされているので、競合がわんさか群がっています。」川上さんが手羽先を頬張りながら、眼光を信夫課長へ真っすぐ向け答えました。
「確かに。ニーズが顕在化され、予算化されているということは、X社はソリューション導入を決めているようなものだから、その案件に対して提案してくる競合他社と比べ、X社の視点で我々がどうやって価値を提供するか、我々の価値を伝えることは大事ですが、押し付けることなく、X社の表層的ではない本当のニーズを見つけ出し、それに対して価値提案する我々の知恵が求められますね。」信夫課長も同意します。
「はい。顧客の本当のニーズを理解し、それに応じたソリューションを提供することで初めて価値が生まれる。知恵を駆使することがSaaVの真髄ですね。」
「例えば、今日の訪問先の一社では、自社の課題を詳しく説明してくれることはなかったけど、その際にこちらから、こんなことでお困りではないですか?と、ストーリーをすぐに出せたのは、我々がこの業界について深く理解していたから、一つ我々と話すことで得られた先方の価値でもあります。」信夫課長が続けます。
「はい。顧客のニーズを理解し、即座に適切なソリューションを提案できることが信頼を築く鍵ですね。」川上さんが応じました。
「でも、価値提供には落とし穴もあります。」信夫課長が続けました。
「顧客の期待に応えるためには、過度な約束をしないことが重要だ。期待値を管理し、現実的な目標設定をすることが必要だ。」信夫課長は具体的な失敗例を交えてアドバイスしました。
「それに加えて、我々はSaaV営業、セールスエンジニアです。当月の数字をつくることも大事です。本日訪問した1社は、我々が展示会で得た情報によると、痛みや悩みが顕在化されていて、予算化はこれからというAグループにカテゴライズした潜在顧客でした。しかし、本日のヒアリングによると、優先順位が変わり、予算化はまだまだ先ということが分かりました。それはBグループにカテゴライズされると思います。こちらのお客様へはマーケティングチームからのナーチャリングが必要になります」再度、信夫課長が川上さんへ伝えます。
「はい。」川上さんは以前の失敗を思い出しながら反省しました。
「だからこそ、我々は現実的な目標数値を追いかけつつ、新規潜在顧客と透明なコミュニケーションを取りながら信頼関係を構築することが大切です。」信夫課長が力強く語ります。
顧客を理解する重要性と価値創造営業を成功に導く組織文化
「顧客を理解することがすべての基本だ。」信夫課長はハイボールを飲みながら強調しました。
「そうですね。顧客のニーズや痛みを理解するためには、もっと深くコミュニケーションを取る必要がありますね。」川上さんが応じます。
「顧客との対話を重ねることで、真のニーズを引き出し、それに基づいた価値を提供することができるんだ。」信夫課長は今日の訪問での具体例を交えて説明しました。
「例えば、今日訪問した会社では、最初のヒアリングで表面的なニーズしか出てこなかった。もし、我々が御用聞き営業であった場合、「ああ、なるほどそうなんですね。」で終わるところでした。しかし、こちらから主体的かつ整理しながら質問を繰り返していくうちに、本当に解決したい課題が見えてきました。」川上さんが今日の経験を振り返ります。
「その通りだ。顧客は最初からすべてを話すことは少ない。ましてや一回や二回しかお会いしたことがない営業マンに対してはなおさらです。だからこそ、我々は適度な距離で最適な質問を重ね、真のニーズを引き出す努力をしなければならない。」信夫課長が補足しました。
「それと同時に、SaaVを成功に導くためには、我々の組織全体がこの理念を共有し、実践することが必要です。」信夫課長は話題を組織文化に移しました。
「共通の価値観で結ばれた強いチームを作ることが重要ですね。」川上さんが同意します。
「これは難しいけれど、その通りです。職場には色々な価値観を持った仲間が居ますからね。しかし、個々の価値観は違えど、根本は組織全体でSaaV(価値創造営業)の理念を理解し、共有することが成功の鍵です。例えば、我々のチームでは、採用の段階でどんなお方にチームに加わって頂きたいかの基本方針を制定し、対話を重ねながら価値を理解して頂くことに努めています。」信夫課長が組織的な取り組みについて語り始めます。
「そうですね。組織全体でSaaVを実践するためには、継続的な教育とコミュニケーションが欠かせません。」川上さんも賛同しました。
「Bグループへ再カテゴライズされる潜在顧客は、明日、村山マーケティング部長へ伝えておいてください。SaaV営業チームとマーケティングチームとの連携は成功には欠くことが出来ません。これからも一緒に頑張りましょう。」信夫課長がハイボールをぐっと飲み込み強く伝えます。
価値創造営業の死角と訪問前準備の重要性
「SaaVにも死角がある。例えば、過度な期待を抱かせてしまうことや、長期的なビジョンに囚われすぎて短期的な目標を見失うことです。これらの弱点を克服するためには、現実的な目標設定と透明性の確保が必要です。」信夫課長がアドバイスします。
「以前のプロジェクトで、顧客に対して過度な期待を抱かせてしまったことがありました。その結果、期待に応えられず、信頼を損ねてしまいました。」川上さんが苦い経験を振り返ります。
「それはよくあることだ。我々は、過度な期待を抱かせず、しっかりとした基盤の上で価値を提供することが大切だ。」信夫課長が力強く語ります。
「訪問前の準備も欠かせないですね。」川上さんが話を続けます。
「顧客の情報を徹底的に調べ、どのような価値を提供できるかを具体的に考えることが重要です。」信夫課長が応じました。
「今日は訪問前にしっかりと調査をしていたので、顧客のニーズに即した提案ができました。」川上さんが自信を持って答えます。
「準備がしっかりしていれば、訪問先でのパフォーマンスも向上する。例えば、今日の訪問では、顧客の業界動向や最近の課題を事前に調べておいたおかげで、的確な質問ができた。」信夫課長が具体的な準備方法を示します。
「そして、準備を怠らずに行うことで、顧客との信頼関係も築けます。」川上さんが続けます。
「訪問前の準備は成功のカギだ。顧客の情報を深く掘り下げ、どのように価値を提供するかを明確にすることで、信頼関係が築ける。」信夫課長がまとめます。
信夫課長と川上さんは、それぞれのお酒を楽しみながら、SaaVの重要性とその実践方法についてさらに深く話し合いました。
信頼構築の次なるステップ
「次のステップは、今日の訪問を基に信頼関係をさらに深め、我々が提供出来る価値を正しくお伝えすることだと思います。人は意外にも忘れる。そして、真実として、自分のことや自社のこと以外、あまり興味をもっていない生き物なのです。」信夫課長が神妙に語ります。
「例えば、今日の訪問で得た情報を基に、顧客に対して具体的な提案を作成し、それをフォローアップすることが必要です。」川上さんが具体例を挙げます。
「そして、次回の訪問やWeb会議で、その提案について詳しく説明し、顧客のフィードバックを受け取り、それを基にさらに改善していくことが重要です。」信夫課長が続けます。
「また、テクニカルディスカッションも必要になるだろう。これは技術部からのサポートが必要だが、PoCを無償で行うことも視野に入れなければならない。PoCを通じて、我々の技術力を実証し、パートナー足り得るかを証明しなければならない。しかし、それには時間とリソースが必要だ。」信夫課長が補足します。
「そして、既存のお客様へのサポートも忘れてはならない。我々の責務として新規顧客の獲得は重要だが、既存のお客様との関係を維持し、信頼を深めることも同様に重要だ。」
「つまり、新規顧客の獲得と既存顧客の維持、両方をバランスよく進めることが重要だということですね。」川上さんが確認します。
「うん。我々は常に両方を意識しながら、最適なアプローチを考えて行動しなければならない。」信夫課長が力強く答えました。
お互いに酔いが回りながらも名古屋の夜が更ける中、二人は新たな決意を胸に、次のステップへと進む準備を整えました。後編では、SaaVのさらなる深淵に迫ります。お楽しみに。
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