価値創造営業(SaaV)を組織に定着させ始めた企業ほど、実は「自分の成功パターン」という死角に気づきにくくなる。強みが固定化し、それに依存し、環境変化に気づけなくなる――これは連載で学んできたSaaVという思考法を、運用する立場になった人が必ず直面する次の壁である。本記事では、SaaV導入後に陥りがちな罠を診断するフレームワークと、「進化し続ける営業組織」を保つための振り返りの技法を解説する。
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価値創造営業の威力とその陰

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「今日は3件ご同行いただきありがとうございました。」川上さんは最後の顧客訪問を終え、レンタカーに乗り込み、シートベルトを締めながら信夫課長に感謝の言葉を伝えました。
「大変勉強になりました。SaaV(Sales as a Value provider)の真髄を垣間見ることができました。SaaVのコンセプトは最強ですね。」川上さんは心底感謝しつつ、熱意を込めて続けました。
信夫課長は冷静にシートベルトを締めながら、穏やかな笑みを浮かべました。「いえいえ、こちらこそありがとう。どのあたりがSaaVの真髄を垣間見れたのかな?」
「はい、モノ売りやコト売りにフォーカスせず、価値を届けることに集中している点ですかね。」川上さんは自信満々に答えました。
信夫課長は頷きながらも、少し思案するように窓の外を見つめました。「なるほど。しかし、SaaVは確かに強力なコンセプトだが、それだけではまだまだ足りないことを忘れてはいけないですね。」
エンジンが静かに唸りを上げ、レンタカーは遠くに見える名古屋の夜景に向けてゆっくりと走り出しました。川上さんは信夫課長の言葉に少し驚きながらも、その真意を尋ねました。
「どういうことでしょうか?」
「SaaVの強みは、顧客に価値を提供することで信頼を築く点にある。しかし、それには高い期待値が伴う。顧客は我々が提供する価値に対して非常に高い期待を抱く。もしその期待に応えられなければ、信頼を失うリスクもあります。」信夫課長の声には冷静さとともに、深い洞察が込められていました。
川上さんは少し黙って考え込みました。「確かに、今日も顧客の反応を見る限り、我々の提案に非常に高い期待を寄せていましたね。」
信夫課長は頷きながら続けました。「期待値を上げすぎると、それに応えられなかった時のダメージも大きい。だから、常に現実的な目標設定と透明性を持って進めることが大切です。」
高速道路入口のゲートが次第に近づいてくる中、川上さんは信夫課長の言葉に深く考え込む。
「つまり、価値を提供するだけではなく、その価値がどれだけ実現可能かを明確に伝えることが必要なんですね。」
「そうですね。そしてもう一つ、今日訪問した3社は大変興味を持ってくれているが、今月や来月の売上に直接寄与することはないでしょう。SaaVの理想を追求しながらも、現実的な売上を確保することも忘れてはいけない。つまり、SaaVの価値提供と当月の売上目標、この2つの異なる視点で仕事を進めていかなければならない。」
川上さんは頷き、「確かに、長期的な関係構築を目指す一方で、今月や来月の売上をどのように上げるかも重要です。」
信夫課長は微笑みながら、「その通り。そして、今日の訪問を基に次に取るべき行動も考えなければならない。詳細なテクノロジーの説明やテクニカルディスカッションが求められるだろう。これは技術部からの加勢も必要だけれど、おそらく無償でのPoC(Proof of Concept)を行わなければならないだろう。つまり、我々にとっては持ち出しになる。」
「それに加え、毎月変わらず弊社のシステムを使い続けてもらうことも重要だ。新規顧客の獲得は確かに重要だが、既存のお客様のサポートも決して忘れてはならない。」信夫課長の声には、今後の行動への明確な指針が込められていました。
川上さんはSaaVの強みと弱みを理解し、次のアクションについて考え始めました。
価値創造営業(SaaV: Sales as a Value provider)の弱点とその影

価値創造営業(SaaV: Sales as a Value Provider)は多くの企業にとって魅力的な営業手法ですが、その一方でいくつかの弱点や課題も存在します。これらの影の部分を明確に理解し、対策を講じることが重要です。以下にSaaVの主要な弱点とそれに伴うリスクについて詳述します。
期待値の管理が難しい
SaaVのアプローチでは、顧客に対して高い価値を提供することを約束します。そのため、顧客の期待値が非常に高くなる傾向があります。しかし、その期待値に応えられない場合、顧客の失望が大きくなり、信頼を失うリスクがあります。特に、新しい技術やソリューションを導入する際には、予期せぬ問題やトラブルなどによりプロジェクト遅延が発生することもあり、その結果、顧客の期待に応えられないことがあります。(やっぱり駄目だったかというリスク)
短期的な成果が見えにくい
SaaVは長期的な関係構築を重視するため、短期的な成果が見えにくいという課題があります。営業担当者や企業は、短期的な売上目標を達成するプレッシャーに晒されることが多い。しかし、SaaVのアプローチでは、顧客との関係を築くための時間と努力が必要であり、その成果がすぐに現れないことがあります。このため、短期的な業績評価に焦点を当てる企業文化との間に矛盾が生じることがあるため、短期と長期のKPIを事前にチーム内で合意形成しておくことが肝要です。
高い導入コスト
SaaVを導入するためには、高度なスキルと知識が必要です。営業担当者には、顧客のニーズを深く理解し、それに対応するカスタマイズされたソリューションを提供する能力が求められます。これには、入社時の本格的なトレーニングに加え、継続的なテクノロジーに対するアップデートやトレーニング、教育が必要であり、そのためのコストが高くなることがあります。更に、技術的なサポートやPoC(Proof of Concept)を無償で提供することも多く、これが企業にとっての負担となります。
短期的な売上と長期的な関係構築のバランス
SaaVを実践する際、長期的な関係構築に焦点を当てる一方で、短期的な売上目標を達成する必要もあります。新規顧客の獲得は重要ですが、既存顧客のサポートを怠ると、長期的な関係が損なわれる可能性があります。このバランスを取ることが難しく、短期的な成果を求めるプレッシャーが強い場合には、SaaVの実践が疎かになることがあります。
リソースの分散
SaaVでは、顧客に対するカスタマイズされた提案やソリューションを提供するため、多くのリソースが必要です。営業、技術、サポートチームが協力して取り組む必要があり、リソースの分散が生じます。特に中小企業では、限られたリソースを効率的に活用することが求められるため、SaaVの導入による負担が大きくなることがあります。
テクノロジーの進化への適応
SaaVを成功させるためには、常に最新のテクノロジーに適応し続けることが必要です。CRMシステム、AI、ハードウェアなどのテクノロジーは日々進化していますが、これに対応するためには継続的な投資と学習が求められます。技術的な進化に追いつけない場合、競争力を失うリスクがあります。
以上のように、SaaVには多くの強みがある一方で、いくつかの弱点も存在します。これらの弱点を理解し、適切な対策を講じることで、SaaVの効果を最大限に引き出すことができるでしょう。
日本企業が直面する現実と価値創造営業(SaaV)の必要性

前述のように、価値創造営業(SaaV: Sales as a Value Provider)にはいくつかのデメリットや弱点があります。しかし、これからの日本企業にとって、SaaVは必要不可欠なアプローチの一つであると言えます。その理由を以下に説明します。
日本市場の縮小と売上の多角化
日本市場は少子高齢化や人口減少により、縮小傾向にあります。この現実に対処するためには、国内だけでなく、国際市場にも目を向ける必要があります。SaaVは、顧客に対して高い価値を提供し、信頼関係を築くことを目的としています。このアプローチを採用することで、日本企業は国内外の顧客に対して競争力を持つことができます。
価値提供による差別化
従来の営業手法では、価格競争に巻き込まれるリスクが高まります。しかし、SaaVを導入することで、価格だけでなく、価値を提供することで差別化を図ることができます。顧客に対して具体的な価値を提供することで、他社との差別化が実現し、競争優位性を確立することができます。
長期的なビジネス関係の構築
SaaVは短期的な売上を追求するのではなく、長期的なビジネス関係を築くことを重視しています。これにより、一度確立された顧客との関係が継続し、安定した収益を確保することができます。また、リピーターや紹介による新規顧客獲得の可能性も高まり、ビジネスの持続可能性が向上します。
国際市場への展開
日本企業が国際市場で成功するためには、現地のニーズや課題を深く理解し、それに基づいた価値を提供することが求められます。SaaVはこの要件を満たすための強力な手法です。顧客に対して具体的なソリューションを提供し、信頼関係を築くことで、国際市場での競争力を高めることができます。
持続可能な成長の実現
SaaVは、顧客の成功を通じて自社の成長を促進する持続可能なビジネスモデルを提供します。顧客が成功すれば、その成功が自社の評判や信頼を高め、新たなビジネスチャンスを創出します。この連鎖的な成長が、企業の持続可能な発展を支えるのです。
これらの理由から、日本企業においても市場の縮小に対応し、売上の多角化を図るためにも、価値提供による差別化と長期的なビジネス関係の構築が不可欠です。SaaVは、そのための強力なツールであり、これからの日本企業にとって必要なアプローチと考えます。
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シリーズの全体像を掴む:
- 価値創造営業(SaaV)とは——B2B営業を「売り込み」から「価値提供」へ
- 【前編】価値創造営業(SaaV)の全貌:思考と組織設計の核心
- 【後編】価値創造営業(SaaV)の全貌:実務と実装のディテール
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