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価値創造営業とは何か。欧州本社で、30代の私が叩き直された日。

私が30代前半の頃のことだ。

ヘッドハントされて、欧州で最も革新的と言われた産業オートメーション企業の日本法人立ち上げに参画した。日系のFA(ファクトリーオートメーション)会社で6年間、複数年連続で営業成績1位を取っていた。自信もあった。エネルギーもあった。何時間働いても潰れない体力もあった。

ゼロからの状態だった。まず自分を売り込んだ。信用を勝ち取った。日本のある大手グループ企業の機械メーカーからの案件を、彼らのビジネスを真剣に取りたいと思って動き、本社にリクエストとして上げた。

会議で向こうから返ってきたのは、私が予想していた「よし、やろう」ではなかった。

「Kazuyuki、お前の話を理解した。これは、私たちのことを単なるサプライヤーとして見ている顧客だ。部品提供者として。条件提示でしか評価していない」

「我々がこのビジネスに入る価値は、どこにあるんだ?」

「冷静に教えてくれ。これは何億円のビジネスになるんだ?」

私は黙った。

ビジネスポテンシャルについて、ざっくりとしか答えられなかった。金額だけの勝負になっているのではないかと、薄々気づいていた。だが、数字の分析と今後のビジネスポテンシャルの分析が、冷徹なまでにはできていなかった。

私は、穴があれば入りたいと思った。

日系の同業会社で複数年間に渡り営業成績1位を取っていた。人間関係の構築営業、自分を売る営業においては、誰にも負けない自信があった。だが、本社の問いに答えられなかった。

Win-Winでなくて、何のビジネスか。

ギブ&テイクでなくて、何の取引か。

ビジネスの本質を、私は何もわかっていなかった。


目次

本社が私を止めた、その理由

もし、本社が私の暴走を承認していたら、どうなっていたか。

私は、ただのサプライヤーになっていた。

「他社はもっと安い見積もりを出してきましたよ」と顧客の購買担当者に告げられ、価格を叩かれ、値段の叩き合いに巻き込まれ、納品のたびに「もう少し安くならない?」と言われ続け、利益率はじわじわと下がり、いつしか「便利な業者さん」「もっと安いところがあれば乗り換えるかも」と顧客に思われる存在になっていた。

本社が私を止めてくれたのは、私を信頼していなかったからではない。ビジネスとは何かを、私よりも深く理解していたからだ。

あの厳しい問いを投げてくれた本社の連中には、今でも感謝している。

WAKOH&CO.が掲げる「以和為幸」の理念、すなわち内なる強みと外部環境の調和は、こうした原体験から導かれている。

あの経験から私が体得したのは、新しい質問だった。

案件が目の前に現れるたび、私はこう問う。

  • これはWin-Winか、Win-Lose(=Loseは我々)か
  • 顧客は我々を「パートナー」と見ているか、「単なるサプライヤー」と見ているか
  • 我々の付加価値は、相手に刺さっているか、それとも部品として消費されるだけか

この問いが立てられるようになって初めて、私は「営業をしている」と言えるようになった。

それまでの私は、営業をしていたつもりで、作業をしていただけだった。


価値創造営業の4象限──あなたは今、どこに立っているか

「価値創造営業」という言葉が、近年B2Bの世界で語られるようになった。

しかし多くの日本企業で、この言葉の定義は曖昧なまま放置されている。「これからは価値創造だ」と社内研修で叫ばれるが、現場の営業パーソンは「で、結局何をすればいいのか」がわからない。

私が30代前半に欧州本社で叩き込まれたものを、今になって整理すると、それは「営業スタイルの4象限」という座標で説明できる。

横軸は、顧客への関与姿勢。受動的か、能動的か
縦軸は、提案の焦点。モノ起点か、コト起点か

この座標を引くと、世の中の営業は4つの象限に分類できる。

象限④:御用聞き営業(The Order Taker)

受動的かつモノ起点。顧客の依頼を待つのが基本スタンス。自社製品の知識はあっても、顧客のビジネスへの理解は浅い。安定はしているが、成長がない。口癖は「何かお変わりないですか?」「何かご用命はございませんか?」。顧客から見ると、「便利な業者さん」「もっと安いところがあれば乗り換えるかも」。

象限③:プロダクトプッシュ営業(The Pitcher)

能動的だがモノ起点。自社の都合(新製品、ノルマ)で動く。行動量は多いが、アポの質は低い。顧客の状況を無視した一方的な提案になりがち。口癖は「新製品が出ましたので、ご説明を!」「今月限定のキャンペーンです!」。顧客から見ると、「また売り込みか…」「こちらの話を聞いてくれていない」。

象限②:受け身のソリューション営業(The Responder)

受動的だがコト起点。顧客から顕在化した課題を相談され、それに応える。ヒアリング能力は高いが、ゼロから課題を設定する力は弱い。口癖は「どのようなことでお困りですか?」。顧客から見ると、「良い相談相手」「困ったことがあったら、まずあの人に」。悪くはない。だが、ここで止まる。

象限①:価値創造パートナー営業(The Co-Creator)

能動的かつコト起点。顧客自身も気づいていない潜在課題や機会を発見・提起する。顧客の業界や事業全体を俯瞰し、経営的視点で対話する。口癖は「3年後を見据えた時、今から着手すべきは□□では?」。顧客から見ると、「なくてはならない事業パートナー」「価格ではなく、あなただから取引したい」。

価値創造営業の到達点は、この右上の象限①にある。

そして、ここに到達した営業を、私は「価値創造パートナー」と呼ぶ。

30代前半の私は、象限④と③の間でフラフラしていた。本社が止めなかったら、その案件は象限④の典型に落ちていただろう。本社の問いは、私を象限①の入口に押し戻した。


G社で今、起きていること──現在進行形の価値創造営業

象限①に立つために、何が必要か。

私の場合、それは欧州本社のメンバーから10年以上かけて叩き込まれた「Win-Winチェック」の習慣だった。

部品単品の引き合いをいただいても、それを動かすソフトウェアや、掛け合わせるソリューションを一緒に提案することを常に心がけてきた。統合オートメーションを提案することを心がけてきた。それは結局、潜在顧客にとっても、その方が本質的な価値、機能的な価値、科学的な価値、金銭的な価値が出せると計算ができたからだ。

それがWin-Winであり、ギブ&テイクの取引だ。

独立してWAKOH&CO.を立ち上げてからも、同じ姿勢で動いている。

単なる時間労働を要求するお客様や、パートナーシップを持ってやれないお客様とは、お断りするケースもある。だが、一度パートナーシップを組むと、お互いギブ&テイクで持っているもの、持っていないものを補完し合い、最大の付加価値を出していくことが続けられている。

私が今、現在進行形で支援しているクライアントの一社、仮にG社としよう。製紙加工業の製造業である。

このG社の営業部門は、典型的な象限④の御用聞き営業に陥っていた。

顧客から指定された部材を、指定された数量だけ、指定された納期で納める。打ち合わせの議事録には「何をやったか」しか書かれていない。提案も能動性もない。顧客側の購買担当者は「便利な業者さん」としてG社を見ていた。価格交渉の余地もない。利益率はじわじわと下がっていく。

私が最初にやったのは、打ち合わせのフォーマットを書き換えることだった。

戦略的な営業日報のテンプレートを設計した。「打ち合わせ内容」だけでなく、「Pain(痛み・課題)」「Need(必要なもの)」「Want(本音の欲求)」「背景・根本原因」を分析する欄を設けた。さらに「こちらから提案したか?」「既存品以外の製品を提案したか?」というセルフチェック欄を設け、能動性を可視化した。Next Actionは「誰が・何を・いつまでに」を必ず記入する。売上見込・案件ステージも、毎回更新する。

このテンプレートを、G社の営業メンバー全員に展開し、毎週末のレビューで議論する場を作った。

最初は抵抗があった。「今までこんなこと書いていない」「面倒だ」と。だが、3ヶ月もすると変化が現れ始めた。

打ち合わせの中で、顧客のペインやニードを意識的に調査するようになる。書き留めるようになる。社内で通知するようになる。それを起点に、こちらから能動的に提案するケースが増えてくる。

数字も動き始めた。検討案件が増えた。価格交渉だけだった商談が、技術や供給体制を含めた多面的な対話に変わった。

これがG社で、今、起きていることだ。

この「売り込まずに売る」プロセスについては、仕組み化の思考として別記事でも触れている。

象限④から象限①へ、人と組織を動かしているのは、テクニックではない。

問いである。

「今日の打ち合わせで、こちらから提案したか?」

「顧客のPainは何だったか?」

「これは本当にWin-Winか?」

問いを毎日立て続けることが、組織の中に新しい習慣を作る。新しい習慣が、新しい結果を作る。


あなたがやっているのは、作業か、仕事か

私が、30代前半の私自身に伝えたいことが一つある。

それは、「お前がやっているのは、作業か、仕事か」という問いだ。

作業とは、言われたままのこと、リクエストされたままのこと、要求されたままのことを、その通りにやることだ。

仕事とは、リクエストされたものに対して、かつ最大の付加価値を提供できないかを常に考え、提案し、一緒に未来を作ることだ。

部品単品の見積もり依頼が来た時、見積もりを出して終わるのは作業だ。

そこに「貴社のラインに統合オートメーションを組み込めば、生産効率が大きく変わる可能性があります」「以前、メンテナンスに課題感を感じていると仰っていましたよね。このシステムを入れることで、構成はこのままでWebブラウザ経由でシステム状況を確認することができ、一次情報に基づいた計画と実行により総合メンテンナス工数も削減することができます」と提案を添えるのが仕事だ。

定期訪問で「何かお変わりないですか?」と聞いて世間話をするのが作業だ。

事前に顧客の決算資料と業界ニュースを読み込み、「御社が今直面しているのは○○ではないでしょうか?実は欧州でこんな事例がありまして」と仮説を持って訪問するのが仕事だ。

価値創造営業の本質は、難しい話ではない。

毎日、自分に問い続けることだ。

「今、私がやっているこれは、作業か、仕事か」

作業を続けていれば、いつかAIに代替される。

仕事を続けていれば、価値創造パートナーになれる。

こうした「売り込まずに売る」発想、そして「通知に支配されない」思考は、いずれも価値創造営業の根底に流れる同じ問いから生まれている。

あなたがやっているのは、作業ですか、仕事ですか。

自社・自分ができる最大の付加価値提供、それが相手とのWin-Winになることを、常に考えていますか。


さらに体系的に学ぶには

B2B営業の構造設計について体系的に学びたい方は、拙著Kindle本『なぜ展示会をやっても、売上は増えないのか?──売上14倍を実現した「設計」の正体』も合わせてご覧ください。展示会という具体的な場を起点に、価値創造営業の実装を解いています。

著者:小松和幸(WAKOH&CO. 代表取締役)

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この記事を書いた人

K.Komatsuのアバター K.Komatsu Creative Director

WAKOH&CO. 代表取締役
各企業や個人が持つ独自の強みと核心(DNA)を活かし、絶えず変化する世界の中で価値を創造します。和を以て、理想の実現へと導く伴走者として、企業の成長をサポートします。

オートメーション産業、IT産業、アパレル産業におけるセールス、マーケティング、コンテンツ・クリエイションの豊富な経験と実績を持ち、多角的な視点からビジネスの成功を支援します。

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