守破離の教えと潜在顧客とのファーストコンタクトとなる展示会の重要性
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川上さんは村山マーケティング部長からのアドバイスを受け、守破離の「守」を再度意識するようになりました。彼は自己流で進めていたプレゼンテーションを反省し、再び基本に立ち返ることの重要性を理解しました。
「川上さん、このパワーポイントは既に去年のSmart Factory Exhibitionの時に価値創造営業(SaaV)の皆様に説明済みですよ?」村山さんはやさしく忠告しました。
「我々の販売までの仕組みは既に出会いの場から始まっているのにお気づきですか?」村山さんはまっすぐに川上さんを見つめています。
川上さんは、その言葉にハッとしました。確かに、彼はこのパワーポイントのストーリーテリングを読んで理解したつもりになっていましたが、実際にはその背後にある深い意味、意図や流れを見逃していたのです。展示会からの出会いから始まる一連のプロセスの重要性を改めて理解することができました。
「展示会は単なる名刺交換の場ではなく、我々の価値創造営業の第一歩なのです」と村山部長は続けました。「展示会での出会いから接点を取り、情報交換を行い、顧客のベネフィットを確認し、最終的には予算化、クロージングに至るまでの流れをしっかりと設計しています。」
川上さんはこの説明を聞いて、展示会がいかに戦略的なビジネスチャンスであるかを再認識しました。彼は自分がいかに主観的かつ自己流で進めていたかを反省し、マーケティング部が提供する資料やストーリーテリングの価値を再評価しました。
「村山さん、ありがとうございます。展示会からの一連の流れがいかに重要か、改めて理解できました」と川上さんは感謝の意を伝えました。
村山部長は微笑みながら、「その意気です、川上さん。私たちは一つのチームです。展示会は我々の顧客との最初の接点であり、ここでの成功が後のビジネスの成功に直結します。お互いに協力して、最高の結果を出しましょう」と応えました。
BtoBマーケットにおける変わらぬ展示会の重要性と戦略の設定
展示会は、価値創造営業(SaaV)において非常に重要な役割を果たします。特にBtoBマーケットでは、潜在顧客との直接的な接点を持つ機会が限られているため、展示会は重要な出会いの場となります。ここでは、展示会の目的とその重要性、さらに効果的な戦略設定とKPIの重要性について解説します。
展示会の目的と重要性
展示会の主な目的は、短期、中期、長期の目標に基づいて設定されます。
短期目標は、買い手にとっての痛みや悩みが明確化されており、売り手がその問題を解決する価値創造を提案し、両社がベネフィットを理解し合ってプロジェクト化を図る目標です。これは即効性のある成果を求めるもので、具体的な商談や契約に繋がるリードの獲得が必要となります。
中期目標は、1〜3年以内に買い手における痛みや悩みを顕在化され、様々なディスカッションや社内稟議を経てプロジェクト化を図る案件です。長期的な関係構築を視野に入れたナーチャリングリストの作成が含まれます。
長期目標は、次の5〜10年間を要しマーケットにおけるブランディングや認知度向上、ポジショニングを強化することの一環としての投資です。
展示会は、これらの目標を達成するための戦略的なツールとして機能します。新製品の紹介や企業ブランドの認知向上、潜在顧客のリードジェネレーション、既存顧客との関係強化など、多岐にわたる目的を持つことができます。
展示会戦略の基本要素
展示会戦略の基本要素には、明確な目標設定、価値を届けたいペルソナの選定、効果的なコンタクトリスト(アンケートシート、ヒアリングシート)の作成が含まれます。展示会に参加する目的を明確にし、ターゲットとなる顧客層を特定することで、展示会の成果を最大化できます。コンタクトリストは、展示会の訪問者を正確に分類し、適切なフォローアップを行うための重要なツールです。
展示会ブースの設計とデザインも重要です。視認性の高いブースデザイン、アクセスのしやすさ、インタラクティブな要素を取り入れることで、訪問者の興味を引き、滞留時間を増やすことができます。また、展示会前の準備や展示会後のフォローアップ活動も成功の鍵となります。価値を届けたい潜在顧客群リストの作成や事前のマーケティング活動、展示会後のリードナーチャリングや商談フォローなど、綿密な計画と実行が求められます。
効果的なKPI設定と評価方法
展示会の成功を測るためには、効果的なKPIの設定が不可欠です。KPIは、展示会の訪問者数、リード数、商談数、成約数などを基に設定されます。具体的には、展示会の規模や目的に応じて、ブース訪問者数の1〜3%が有望なリードとされ、そのうちの1〜3%が実際にクロージングに至る目標を設定します。
これらのKPIを基に、展示会の効果を評価し、必要な改善策を講じることで、次回以降の展示会の成功確率を高めることができます。展示会は単なるイベントではなく、戦略的なビジネスツールであり、価値創造営業の重要な一環として位置づけられるべきです。
川上さんが守破離の「守」を再確認し、基本に忠実に展示会戦略を実行することが、成功への道筋となります。展示会を通じて得られるリードや商談を最大限に活用し、企業の成長を促進するための重要な手段として、展示会の重要性を再認識しましょう。
展示会前後の効果的な準備とフォローアップ
展示会は数百万〜数千万円の投資となり、企業にとって大きな負担です。出展するからには成果を出す必要があり、単なる慣習やお付き合い出展では、投資に見合ったリターンは期待できません。商売は投資と回収の繰り返しであり、特にBtoB市場では展示会後のフォローアップが重要です。ここからが本当の知恵の勝負であり、最もエキサイティングな部分でもあります。
展示会前の準備
展示会前の準備は、成功の鍵を握る重要なステップです。ターゲットリストを展示会用に特別に作成するのは現実的ではありませんが、既存のリストを活用し、事前にコンタクトを取ることで、ブースへの来場を促すことは可能です。また、パートナー企業を通じてブース来場を促すことも有効です。
展示会前には、以下のような準備を行います:
- 既存コンタクトへの案内:展示会に出展することを既存の顧客やパートナー企業に知らせ、ブースへの来場を促すメールを送ります。
- パートナー企業の活用:パートナー企業に対しても案内を依頼し、相互に顧客を紹介し合うことで、ブースの訪問者を増やします。
- メリットの提供:展示会に来場することで得られるメリットを明示し、興味を引きます。例えば、新製品の紹介、限定資料の配布、特別セミナーの開催などです。
展示会後のフォローアップ
展示会が終わった後も、成果を最大化するためにはしっかりとしたフォローアップが必要です。展示会中に得たリードを放置せず、迅速かつ効果的にフォローアップすることが重要です。
- リードの分類:展示会中に得たリードをS、A、B、C、Dに分類します。
- Sグループ:痛みや悩みが明確かつ予算もあり、すぐに提案できるアカウント
- Aグループ:痛みや悩みがなんとなくあるが予算計画はこれから、先ずは提案可能なアカウント
- Bグループ:興味はあるが、痛みや悩みが不明確かつ予算計画も無いアカウント
- Cグループ:将来的に顧客になる可能性があるアカウント
- Dグループ:顧客にはならないアカウント
- S、Aグループへのフォローアップ:痛みや悩みが明確化されているのです。展示会翌週には、特にSグループのアカウントは予算計画もあるため、価値創造営業(SaaV: Sales as a Value provider)が迅速にフォローアップの連絡を入れ、具体的なソリューションオファーをしなければなりません。それがお客様にとってベストだと思うからです。
- B、Cグループへのナーチャリング:B、Cグループのアカウントには、定期的な情報提供や関係構築を行い、将来的なご相談に備えます。
展示会は単なるイベントではなく、ビジネスチャンスの起点です。価値創造営業の真価は、展示会後のフォローアップにあります。ここで得たアカウントリードと繋がることで、投資を回収し、企業の成長を促進することができるのです。
価値創造営業(SaaV)を実現するためのマーケティング部と営業部の効果的な連携
展示会の成功は、マーケティング部と営業部の連携に大きく依存します。両部門が連携し、各々の役割を果たすことで、展示会で得たリードを効率的にフォローアップし、価値創造営業(SaaV)としての成果に結びつけることができます。
マーケティング部と営業部の役割分担
マーケティング部と営業部の役割分担は、展示会において特に重要です。マーケティング部は主に以下の役割を担います:
- 事前準備:展示会の大きなコンセプト立案(なぜ、今回出展するのか?軸となるメッセージの確立)、プロモーション、招待状の送付、ブースの設計とデザイン、展示会プレゼンテーション資料の作成。
- リードの収集:展示会中に訪問者の情報を収集し、リードとして営業部に引き継ぎます。
- ナーチャリング:展示会後のリードに対して、定期的なフォローアップや情報提供を行い、痛みや悩みに対するソリューションやきっかけになる情報を提供。
一方、営業部は次の役割を担います:
- ブースでの対応:訪問者に対して製品やサービスによってもたらされるベネフィットや技術的な説明を行い、プロジェクトの機会を創出します。
- リードのフォローアップ:マーケティング部から引き継いだリードに対して、迅速にフォローアップを行い、具体的な商談に繋げます。
- 関係構築:訪問者との関係を深め、長期的なビジネスチャンスを育てます。
展示会における部門間の協力体制
展示会中の部門間の協力体制も重要です。川上さんと村山さんの例を参考に、展示会での役割分担と協力体制を以下のように整備することが有効です。
- コンタクトシートの活用:マーケティング部が設計したコンタクトシートを使用して、訪問者の情報を効率的に収集します。このシートには、顧客のニーズや興味を引き出すための質問が盛り込まれており、非常に重要です。誰が対応しても一定の情報が得られるように設計されています。
- ブース内の動線設計:訪問者の流れをスムーズにし、滞留時間を増やすための導線設計を行います。これにより、訪問者がブース内で必要な情報を得やすくなります。
- デモとプレゼンテーション:技術部が製品デモを担当し、営業部がプレゼンテーションを行うことで、訪問者に対して総合的な理解を促します。
また、ここでは割愛しますが、展示会ブースには様々な役割(ハンター、ファーマー、後方支援隊、おしゃべり対応、通信班、神など)が存在します。各メンバーが自分の役割を果たすだけでなく、困った時には助け合うことが大切です。例えば、ハンターが忙しい時には、ファーマーが代わりに初期対応を行うなど、柔軟に対応することで、訪問者に対する対応品質を保ちます。
展示会後の打ち上げも重要な要素です。チーム全体でお互いの努力を称え合い、次の展示会に向けた士気を高めることができます。打ち上げの場では、日頃の感謝や反省点を共有し、チームとしての結束を強めることができます。
最後に、展示会の成功は人間関係に大きく依存しています。商売は、企業同士の取引に見えますが、最終的には人と人との関係が重要なファクターとなります。展示会では、多くの訪問者との出会いを通じて新たなビジネスチャンスを生み出すだけでなく、既存の関係を深める機会でもあります。
WAKOH&CO.は、展示会を通じて顧客との強固な関係を築くためのサポートを提供します。皆様の成功をお手伝いし、共に価値を創造するパートナーとして、お役に立てることを心から願っています。
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