展示会のコンタクトレポートは、出展前に設計する ── 責任者の判断を、次の担当へ渡すために

展示会の成果は、会場では決まりません。翌週の月曜日に決まります。

私は展示会のあと、必ず翌週の月曜日に2〜3時間をかけて、持ち帰ったコンタクトレポートを一枚ずつ見直します。欧州のオートメーション企業B&Rの日本法人にいた10年間は、営業とマーケティングを統括する責任者として、この見直しをしてきました。独立してからは、支援先の会社で同じことをしています。業種も規模も違いますが、やることは変わりません。

そして、この月曜日がうまくいくかどうかは、出展前の準備でほぼ決まります。会場で何を聞き、何を書き残し、誰に渡すのか。その設計図がコンタクトレポートです。この記事では、出展前に決めておくべきことを書きます。

目次

まず、会社として誰に何を届けるかを定める

展示会の準備は、ブースのデザインからではなく、会社の戦略から始まります。どの市場の、誰の、どんな痛みに応えるのか。自社はどんな価値を届けられ、それをどんな言葉で伝えるのか。六工程でいう「定める」です。

今の買い手は、展示会だけで会社を知るわけではありません。Webの記事を読んで来場する人がいます。AIに相談して社名を知り、会場で確かめに来る人がいます。展示会で話した人が、後日ウェビナーで理解を深めることもあります。どの入口から入っても、同じ会社の、同じ価値が伝わる状態にしておく。そのうえで、今回の展示会がどの役割を担うのかを決めます。

KGIとKPIも、ここで決めます。気をつけたいのは、目標は業界の平均ではなく、自社の段階から決めるということです。B&Rのように装置を実機で見せる会社は、8〜10小間の大きなブースが必要でした。ソフトウェアの会社なら、そこまでの広さは要りません。一方で、事業を一気に広げる段階にある会社なら、ソフトウェアでも大きく出ることがあります。会社の段階、予算、展示会に何を期待するのか。それによって、ブースの大きさも、名刺の目標も、案件の目標も変わります。名刺の枚数や商談数をKPIに置くなら、何を「1件」と数えるのかも、この段階で決めておきます。

幕張メッセの展示会場の風景
幕張メッセ:通いなれた風景。この風景を見ると、エンジンが掛かる!(小松)

会場の現実を前提に、用紙をつくる

会場は、思いどおりにはなりません。ブースに人が集まるほど、一人にかけられる時間は短くなります。書ける量も限られます。混み合った時間帯の記録は、どうしても断片になります。

だから私は、会場ですべてを書き切ることを前提にしません。人の波が引いた時間に書き足す。ホテルに戻ってから書き足す。翌週の月曜日に思い出して埋める。そうやって断片を文脈に戻していきます。用紙は、その書き足しがしやすい形にしておく必要があります。

これからコンタクトレポートを用意するなら、次の四つの欄から考えてください。

  • 接点と背景:来場者の会社と役割、対応した人、以前からの接点、ブースに来たきっかけ
  • 会話で分かったこと:困っていること、関心を持った内容、検討の時期や予算について確かめられたこと
  • その場の見立てと約束:仮の分類とその理由、渡した資料、次に確かめること、相手と約束した連絡の方法と時期
  • 見直しと引き継ぎ:責任者のコメント、確定した分類、次の担当者と対応、確認した日

もう一つ大事なのは、相手から聞いた事実と、対応した人の見立てを書き分けることです。予算を聞けなかったなら「未確認」と書く。聞いていないことを「ない」と書くと、その後の判断がすべてずれます。

分類は、記号ではなく理由で渡す

私はこれまでの記事で、展示会で得た接点をS・A・B・C・Dに分ける考え方を紹介してきました。

  • S:課題が明確で、予算も確保されている
  • A:課題はあるが、予算の計画はこれから
  • B:関心はあるが、具体的な課題はまだはっきりしない
  • C:将来、顧客になる可能性がある
  • D:今のところ、顧客になる見込みはない

会場の担当者は、会話をもとに仮の分類を付けます。ただ、「A」という記号だけでは、次の人は動けません。なぜAなのか。本人が何を話し、何がまだ分かっていないのか。分類と一緒に、その背景と文脈を残します。判断できる材料が足りなければ、保留として責任者に渡します。

仮の分類を、担当者だけで確定させてはいけません。そのまま追客を始めてもいけません。確定させるのは、翌週月曜日の責任者のレビューです。誰がその責任者を担うのかも、出展前に決めておきます。

責任者の「思い」まで、紙に書いて渡す

私が今も紙のコンタクトレポートを使っているのは、責任者が直接コメントを書き込めるからです。

「AI時代に、紙ですか?」と驚かれることがあります。ここは紙なのか、と。そのたびに、駅伝の襷を思い浮かべてもらいます。襷がデジタルのデータになったら、それぞれの走者が込めてきた思いや、その一本に懸けてきたスタッフの思いは、次の走者に伝わるでしょうか。手で書いた文字には、書いた人の熱が残ります。コンタクトレポートの紙は、私にとってその襷です。

現場で話した内容を読み、責任者がどう判断したかを書き加える。そのときに書くのは、判断だけではありません。思いも書きます。たとえば、こういうコメントです。

ここまで痛みがはっきりしていて、実際に探していると言っている。良い提案をして、必ず案件にしてほしい。

この一行があるかないかで、受け取った担当者の動きは変わります。仕事をするのは人です。人は、記号では動きません。相手の経緯を知り、責任者が何を大事にしているかを知って、初めて本気で動きます。現場の情報と、責任者の判断と思いを一枚の紙にのせて、次の人へ襷として渡すのです。

デジタルで管理する場合も、考え方は同じです。紙から台帳やCRMに移すときに、分類の記号だけが残り、経緯やコメントが落ちてしまう。これが一番よくある失敗です。移す項目と、紙の保管場所、見られる人も、出展前に決めておきます。

出展前に、月曜日の段取りまで決めておく

コンタクトレポートの準備は、用紙をつくって終わりではありません。会場から戻ったあとの段取りまでが準備です。

  • 誰がレポートを回収するのか
  • 翌週月曜日の何時から、誰が集まって見直すのか(私は2〜3時間を取ります)
  • 確定した分類を、誰に、どの記録で渡すのか

ここまでを出展前に決めておけば、展示会は「名刺を集めて終わり」になりません。展示会のあとの見直しと、半年後・1年後の確かめ方は、展示会後のフォローアップの記事に書きました。

コンタクトレポートの雛形をお配りしています

私が実際に使っているコンタクトレポートの雛形(Word)を、無料でお配りしています。登録は要りません。次の展示会の前に、用紙の欄と、書いたあとに誰へ渡すのかを、この雛形で確かめてみてください。

コンタクトレポートの雛形を開く(Googleドライブ)

展示会と六工程の考え方は、メールマガジン『回路』でもお届けしています。

出展前の準備と引き継ぎの段取りを、自社に合わせて整えたい場合は診断・実行設計へ。決めた運用を台帳やCRM、資料に落とし込む仕事は、実装パートナーでご相談いただけます。

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この記事を書いた人

K.Komatsuのアバター K.Komatsu 代表取締役 | 売れる仕組みの設計者

WAKOH&CO. 代表取締役
各企業や個人が持つ独自の強みと核心(DNA)を活かし、絶えず変化する世界の中で価値を創造します。和を以て、理想の実現へと導く伴走者として、企業の成長をサポートします。

オートメーション産業、IT産業、アパレル産業におけるセールス、マーケティング、コンテンツ・クリエイションの豊富な経験と実績を持ち、多角的な視点からビジネスの成功を支援します。

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