ひとつ聞きたいことがある。
あなたが何かを買うとき、どうやって調べているか。
家電を選ぶとき。ソフトを比較するとき。店を予約するとき。検索して、比べて、レビューを読んで、決めているはずだ。営業が来るのを待って決めた、という人はたぶんいない。
では、なぜ自社の顧客だけは、違う買い方をすると思えるのか。
この記事では、その問いに一次データで答える。日本語の記事ではあまり紹介されていない数字を、発表元のリンクとともに置く。
数字を先に置く
買い手が供給者と会っている時間は、購買全体の17%
Gartnerの調査による。B2Bの買い手が供給者と会う時間は、購買プロセス全体の17%にすぎない。複数の供給者を比較する場合、一社あたりの営業担当と過ごす時間は5〜6%になる。
複数社を検討していれば、あなたの会社に割かれるのは、買い手の時間の20分の1程度ということになる。
→ Gartner: The B2B Buying Journey
営業を介さずに買いたい買い手が、61%から67%へ
これは2年分のデータが揃っている。
2024年8月から9月にかけて実施された632人の買い手への調査では、61%が営業担当を介さない購買体験を望むと回答した。
→ Gartner Press Release, 2025年6月25日
その翌年。2025年8月から9月にかけて実施された646人の買い手への調査では、67%に上昇した。そして45%が、直近の購買でAIを使用したと回答している。
→ Gartner Press Release, 2026年3月9日
1年で6ポイント動いている。
AIの利用は89%から94%へ。そして最も重要な情報源になった
Forresterの調査は、規模が違う。
1年前、89%のビジネス購買者が購買プロセスでAIを使用していると発表された。その割合は94%まで上昇した。そして、生成AIまたは対話型検索を「他のどの情報源よりも意味がある」と答えた買い手は、他の情報源を挙げた買い手の2倍にのぼる。ベンダーのウェブサイト、製品専門家、営業を大きく引き離した。
→ Forrester: B2B Buyers Make Zero-Click Buying Number One
調査対象は約18,000人。2026年1月に発表されたこの調査は、生成AIがB2Bの購買を根本から変えつつあることを示している。
→ Forrester: 2026 Buyer Insights
よく引用される数字は、発表元に否定されている
ここで、ひとつ注意を書いておきたい。
日本語の記事でよく見かける数字がある。「B2Bの購買プロセスの57%は、営業に接触する前に終わっている」「購買調査の67%はオンラインで完結する」というものだ。
この数字は、発表元であるForresterが後に否定している。
Forresterは自社ブログで、最も引用されてきたこれらの数字が信用を失ったと明言している。買い手が営業と話す前に購買行程の57%を終えているわけではなく、調査の67%をオンラインで済ませているわけでもない、と。
では何も変わっていないのか。そうではない。同じ記事でForresterはこう書いている。買い手は、売り手が販売サイクルを制御する以上に、自らの購買行程を制御している。そして74%の買い手が、オフラインでの購買の前に調査の半分以上をオンラインで行っている、と。
「営業に会う前に何割終わっているか」を数えるのは、そもそも設計が難しい。買い手は行ったり来たりするからだ。
だが「営業と会う時間は17%」「AIが最も意味のある情報源」は、別の測り方をしている。こちらのほうが確度が高い。
否定された数字を引いて主張を組み立てると、その主張ごと崩れる。だから使わない。
AIは速いが、不完全である
もうひとつ、Forresterの指摘で重要なものがある。
AI検索ツール、いわゆるアンサーエンジンは速度と効率をもたらすが、不完全あるいは信頼できない情報を返すことが多く、不信を生んでいる。買い手はそれを補うため、信頼できる情報源に検証を求める。人との接触の価値は失われていない。
これは「AIが全部やる」という話ではない。
買い手はAIで候補を絞る。だが、その答えを鵜呑みにはしない。別の情報源で確かめる。そして最後は人に会う。
つまり、こういう順序になっている。
AIで候補が絞られる → 買い手が検証する → 残った数社に会う
最初の段階で候補に入っていなければ、検証も、面談も発生しない。
「的外れなアプローチ」の代償
もうひとつ、Gartnerの数字を置いておく。
73%のB2B買い手が、的外れなアプローチを送ってくる供給者を積極的に避けている。
同じ調査でGartnerのアナリストはこう述べている。多くのB2B買い手が、営業とその組織から受け取るアプローチに圧倒され、苛立ちを感じている。質の低い新規開拓は、潜在顧客との関係を積極的に損なっている、と。
送れば送るほど、届かなくなる。
これは「量をこなせ」という指示と、正面から衝突する数字だ。
外資系にいた10年で見たこと
数字だけでは足りないので、自分が見てきたものも書いておく。
私は欧州系の産業用オートメーション企業の日本法人立ち上げに関わり、約10年をそこで過ごした。その10年で、買い手が用意周到でないのを見たことがない。
信用調査会社を使って、取引に足る相手かを慎重に調べる。代替となる供給者を常に持っている。そのうえで、双方に利のある取引を組もうとする。
ある新規事業でメーカーと組むことになったとき、本社側はすぐにその会社の主力製品への購買意欲を示し、議論を重ねた。同時に、自社の産業用PCとタッチパネルを組み込んでほしいという要求も出した。そして実際に、こちらもその会社の製品ラインを購入した。
売り手と買い手ではなく、互いに相手の顧客になる。その構造を作れるかどうかを、彼らは最初から見ている。
足繁く通えば買ってもらえる、という世界の対極にある。
変わったのは、調べる手段だけだ。買い手が用意周到なのは、昔からそうだった。
日本は遅れている、ではなく、もう来ている
「アメリカの話でしょう」と思われるかもしれない。
IDCは2026年7月、日本市場に向けてこう書いている。購買の流れはすでに変わっており、AIによる発見から始まり、ベンダーサイトの確認、同僚による検証、販売パートナーへの相談を経て、ショートリストが作られる。CIOやCFOがAIで調べたときに自社が明確に出てこなければ、候補に入っていることすら知らないまま脱落する。
そして、こうも書いている。AEO/GEOは、マーケティングの実験ではなく、事業に不可欠な能力になった、と。
IDCが日本企業に向けて警告を出している段階だ。つまり、まだ多くの日本企業が対応していない。
だから「営業が弱い」になる
ここまでの数字を並べると、ひとつの構造が見えてくる。
- 買い手が営業と会う時間は、購買全体の17%
- 営業を介さず買いたい買い手は67%、しかも増えている
- 94%が購買プロセスでAIを使い、AIが最も意味のある情報源になった
- そして73%が、的外れなアプローチを送る会社を避けている
候補に入る前の段階で、勝負の大半が終わっている。
この状態で売上が落ちると、何が起きるか。
営業のせいになる。
だが候補に入る前に落ちているなら、営業がどれだけ通っても届かない。会う機会そのものが発生していないからだ。
足で稼ぐという方法が効かなくなったのは、営業が弱くなったからではない。買い手が、営業に会う前に決めるようになったからだ。
どこを直せばいいのか
売れる仕組みには、六つの工程がある。定める、集める、育てる、決める、広げる、返す。
この記事で扱ったのは、そのうち「集める」の最上流にあたる部分だ。
見込み客が入ってくる経路をつくる。かつてはそれが、展示会であり、紹介であり、営業の足だった。いまはその手前に、AIが候補を絞る段階が挟まっている。
だが、そこで返ってくる結果を読むと、たいてい「定める」の答え合わせになっている。自社が何屋として認識されているかが、そのまま出てくるからだ。
補足
この記事で引用した数字は、すべて発表元の一次情報にあたっている。リンクはすべて調査会社の公式ページである。
数字は今後も動く。Forresterの調査でAI利用率は1年で89%から94%へ、Gartnerの調査でrep-free志向は61%から67%へ動いた。次の年には、また違う数字が出る。
本記事は2026年9月時点の公開情報に基づく。
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